「すべてがFになる」森博嗣

何か面白い小説がないか、ネットで調べたところ、この本が出てきたので購入。結構な厚さでびっくりしたが、とりあえず挑戦してみることに。



あらすじはココ。

この本を読み終えるまでにかなり時間がかかってしまった。別に仕事が忙しかったわけでもないけど、僕にとっては物語のテンポが遅く思えた。読んでも読んでもページ数が沢山残っていて、なかなか次に行く、という気になれなかった、というのが正直な感想。

小さな島の孤立した研究所で起きた密室殺人を助教授と学生が解決していく物語で、ここはちょっと東野圭吾のガリレオシリーズにちょっと似ているかな、という印象。ガリレオはそれなりにわかりやすかったし、テンポも良かったので、どんどんと読み進められた。また、ガリレオは湯川教授がそんなに難しい理系用語は使わなかったけど、今回はめちゃくちゃコンピューター用語が多用された。僕は一応コンピュータ関連のエンジニアなので、大体の単語はわかったが、これが普通の素人でミステリー好きだったら、途中で挫折したんじゃないかな、と思う。

物語も複雑で、最初の半分ぐらいは何も解決しないまま、ずっと伏線が貼られ続ける。でも、読んでいる当人はそれが伏線だとはわからないので、「なんでこんな話が出てくるんだろう」と不思議になるしかなかった。それが普通ならワクワクしながら読み進めるんだろうけど、わからないから面倒くさくなってしまう、という悪循環。

ただ、4分の3ほど読み終えた頃から、段々と謎が解けてきて、どのように殺人が行われたか、などがわかってくるとどんどんと読み進められるようになった。四季博士に子供がいた、とか、その子供が研究所の所長との子供だったとか、その子供が四季博士と入れ替わっていた、四季博士が実は妹の未来に入れ替わっていた、とか、そして色々な伏線がすべて回収されたことは凄いな、と思った。よくあんなに沢山の伏線を入れて、すべて回収できたな、と感心してしまった。

すべてがFになる、というのは、コンピュータの16進数で、研究所で使われているシステムが2バイト。すべてがFになるとFFFFになる。その時に研究所のシステムが障害を起こすように設定されたいた、という。また四季博士が７は孤独、すべてFになる場合はBとDが孤独、ということについても、10進数では７が素数、16進数だとB＝１１、D＝１３が素数になるから。16進数の場合、７は14があるから孤独ではないらしい。

ネタバレでいうと、当初四季博士と思っていた人物は、四季博士の14歳の娘。四季博士はその娘を殺して手足を切断。ウェディングドレスを着せロボットに乗せて部屋から登場させた。全員がその死体に目を奪われている間に四季博士は屋上に移動。屋上ではヘリコプターで帰ってきた所長を殺害。そして研究所所長がアメリカから連れてきた、という妹の未来さんに入れ替わった。四季は待機している所長の部屋からパソコンを通じて、研究所内のすべての人の動きを観察。自分の仕掛けた罠がばれそうになったら、今度は副所長を殺害。また2日後に島に船が来るとわかったら、キャンプに来ていた大学の研究室のグループと一緒に島を脱出した。

この小説が凄いな、と思うのは、書かれたのが96年だ、ということ。僕が読んだのが2023年。今現在すでに普通になっている、チャットやバーチャルリアリティのゲームがすでに普通に使われている、という設定で描かれていること。96年当時ではまだまだそんな状況になかったコンピューターの分野を予言したかのような設定は素晴らしいと思った。

この小説の作者は、作品を書いた当時は名古屋大学工学部建築学科の助教授で、その時すでに何冊か作品を書いていたらしい。作品の素晴らしさに気が付いた雑誌「メフィスト」の編集者が、わざわざ「メフィスト賞」という賞を誕生させ、その賞を作者に贈呈し、華やかなデビューを演出した、とのこと。初めから素晴らしい才能の持ち主だったんだな、と思った。

この作品を書いたのが39歳（96年）。2005年まで大学教授（45歳）。その後退官し小説に専念しているらしい。この作品に出てくる主人公、助教授（犀川創平）と学生（西之園萌絵）の小説は他にも10作品ほどあるらしい。

調べるとアニメやドラマにもなっていたらしい。アニメ動画をYoutubeで少しだけ見たけど、個人的には小説を読んでいるときのイメージと全く違っていたので、ちょっとがっかり。ドラマは画像しか検索できなかったけど、面白かったどうかは不明。評価を検索すると、良いという人と、がっかりという人に別れていて、こちらも不明。

この作品を読んで、色々と考えさせられたし、読んで良かった、と思う。