(ドラマ)拾われた男

俳優・松尾論の自伝エッセイがNHKーBSプレミアムでドラマ化された。仲野太賀主演、伊藤沙莉、草彅剛、、薬師丸ひろ子、風間杜夫、石野真子出演。

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俳優を夢見て上京してきた松戸論は、モデルを目指す高校の同級生のアパートに居候を始める。色々な劇団のオーディションを受けて落ち続けていたある日、アパートの前の自販機の下にあった航空券を拾う。それを交番に届けたら、その持ち主が芸能プロダクションの社長で、その芸能プロで雇ってもらうことになった。

でも無名の役者がゆえに仕事などなく、アルバイトに励む毎日。そして時々入ってくるエキストラの仕事を少しづつこなしながら、脇役の仕事をもらえるようになっていった。そんな中、同じアルバイト仲間の女性(伊藤沙莉)と結婚。仕事は順調に進んでいった。

論には兄がいて、小さいころから仲が悪かった。あまり面倒を見てくれない兄。いつも自分のことを見下していた兄。その兄がアメリカに留学に旅立った。兄は両親の再々のメールにも返事をせず、論のメールにも中々返事をしてこなかった。返事が来た時には、兄のことを心配していた祖母が亡くなった後。怒りに満ちた論は「もう家族ではありません」という言葉を突きつける。

そしてまた年月が流れ、アメリカから「兄が脳梗塞で倒れた」という連絡が入る。早急に渡米した論。場所はミシガン州カラマズー。病院には左半身が麻痺している兄がいた。同居しているアメリカ人女性の子供と野球をしているときに、急に倒れてしまいそのまま救急車で病院に搬送されたらしい。

兄は、カラマズーの大学に留学していたが、のちに自ら退学し不法滞在のままアメリカに在住。保険も入ってなかったので、今回の入院により1千万円の医療費の支払が必要になった。「治ったら帰国する」と言っても「帰らない」と意地を張る兄。

話によると、大学を退学した兄は、近所のレストランで働くようになり、そこで太巻きをメニューに提案したり、お客とのトラブルを解決したり、お店のムードメーカーとなっていた。自分の知らない兄の話を聞きながら、兄のことがよくわからなくなっていった論は仕方なく一度日本に帰国する。

実は、野球をしていた子供が、近所の子供たちとケンカになった。兄は「自分は大リーグ投手の木田で、150キロの速球を投げる。そしてウチの子はその球を打ってホームランにする」と約束していた。

今度は兄を連れて帰るために再渡米した論。脳梗塞により約束がかなえられないことを知ると、論が代わりにプロレスのマスクをかぶり、阪神タイガースのユニフォームを着て、子供と対決することに。煙を出すおもちゃのボールを投げた論。見事にホームランにした子供。無事に子供たちはみんな仲良くなった。一千万円の医療費は、アメリカ政府が「低所得者への免除」の対象となったために、支払わずに済んだ。

15年ぶりに帰国した兄は、空港に迎えに来てくれた両親に何度も謝っていた。体調が良くなり、川べりでピクニックをしながら撮った記念写真が、最後の家族写真となってしまった。なんとその数年後に兄は亡くなってしまった。

このドラマは、最初の「拾った航空券で人生が変わった」というイントロダクションがとても興味を誘い、その予想を大きく上回り、とても面白いドラマだった。

運が良いだけ、と思いきや、苦しいことも何度もあり、それでも諦めずに頑張り続けた主人公。人の人生は多分、努力だけではどうにもならない。かといって、運だけでもどうにもならない。時々やってくる小さな運をつかみ、それを生かすために努力する。その努力が実ったころにまた運がやってくる。そういうものの積み重ねなのかな、と思う。そういうことを教えてくれたドラマだった。

またお兄さんとの関係、家族の関係も興味深かった。ずっと嫌っていた兄は、実は自分のことを心配してくれていたり、和まそうと、そして笑わそうとしてくれていたりしていたんだ、ということを知る。論「家族っていつも居心地が悪い」、妻「でもそういうもんでしょ?家族って」・・・きっと家族ってそういうものなのかもしれない。

他にも興味深いエピソードが色々とあったけど、とても面白いドラマだった。

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店長がバカすぎて・早見和真

書店でこの本を見たときに「なんだ、この題名は!?」と思ったのがきっかけで、最初の数ページを読んだ。

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今まで読んできた本は、とてもきっちりしていたし、文面も正しい日本語で書かれていたが、この本はどちらかというと、ブログを読んでいるような感じがした。登場人物のセリフはとても現代的。今まで読んできた小説とは全く違うタイプのもので、最初は読みづらさを感じたが、途中から新鮮な気持ちになり、読み終わった後は他の小説同様、清々しい気持になった。

主人公の谷原京子は28歳、書店で働く契約社員。自分の気に入った小説の推薦コメントを書いた、カリスマ書店員・小柳真理に憧れて、彼女の働く武蔵野書店で働くようになった。そこの店長・山本猛、推定40歳ぐらいは、朝礼ではいつも熱く店員たちを鼓舞し、情熱を燃やしているが、すべて空回り。その態度が京子をいつもイライラさせていた。

全6話で構成されていて、それぞれに「○○がばかすぎて」というタイトルがついている。最初は店長、小説家、書店の社長、営業、神様(お客)、そして最後は自分にたどり着く。

前半は、書店員あるあるが満載で、コメディタッチに描かれていて、時々クスッと笑ってしまった。「きっと書店員さんが読んだら、わかるわかる!って思うんだろうな」という場面が何度もあった。

また読んでいて「こんなに頑張っているのに薄給か・・・」と思うと、ちょっと切なくなった。紙文化が終わりに向かっていて、これからデジタルの世界に移行している印刷業界、そして日本経済ってやっぱり大変なんだな、ということもこの本から読み取れた。きっと本屋じゃなくても、どんな業界でも同じような環境があって、共感できる人は多いんだと思う。

さて最後の章では、それまでの5章で散りばめられた伏線が全て繋がってきて、単なるコメディ小説、あるある小説ではなく、本格的ではない、ちょっとしたミステリー小説だったんだ!ということがわかって、なるほど!と感心させられた。その事実を知ってからもう一回読むと、もっと楽しいのかな、と思った。

最終章では、出版元が「是非読んで感想を聞かせてほしい」と言って、発売前に持ってきた小説が、京子自身の体験談を元に書かれていて、主人公も谷口香子(きょうこ)と名前もほぼ一緒。そして作者自身から「感想コメント」を求められた。そしてその小説の題名が「店長がバカ過ぎる」。そしてその出だしの文章が、この小説と全く一緒だった。そんなからくりがあるのか!?と驚きと共に一本やられた!という、なんか楽しい気持になった。

京子の実家の小料理屋に良く来る常連客、石野恵奈子。この人は実は売れっ子作家の大西賢也。よく本屋に来る客「マダム」は、京子が幼小の頃に、父親によく連れて行ってもらった本社の書店員。店長が朝礼の時に、店員たちに薦めていた「やる気のないスタッフに~」の著者の竹丸トモヤは、山本猛店長の名前をアナグラムで並べ替えるたもの?!書店を止めてアパレル販売員になった小柳真理は、武蔵野書店に再就職して店長になった。

最後の角川春樹さんとの対談で、映像にしてもらえたら嬉しい、という作者の希望があり、角川さんは「これは映画よりもテレビ向き」と言っていた。作者の早見さんはNHKあたりで6話完結のつもりで書いた、と言っていた。是非、映像化してもらえたら、と思う。

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