「六人の嘘つきな大学生」浅倉秋成

奥さんが、文庫本が出るまで待って待ってやっと手に入れた小説、ということで読んでみた。

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どこかのウェブサイトに、ネタバレのあらすじがないか、と調べていたら下記を発見。
https://nonnopan.hatenablog.jp/entry/2024/02/17/172636

僕の書きたかった感想も書いてあって、あぁ、僕は自分の感想文なんて書かなくてもいいかな、と思えるぐらい同じ感想だった。

簡単なあらすじは、超人気IT企業の新卒採用。5000人の応募者の中から選抜された6人の大学生が、最後はディスカッションで一人を選考する、という状況で、その会議室から各応募者に関する告発文が発見される。封筒に入ったそれぞれの告発文を1つづつ開けていく参加者。そして犯人捜しをする参加者たち。最後はアリバイの無い波多野が嵌められた形で犯人となってしまう。

後半は、IT企業に入社できた嶌衣織の視点から、当時のディスカッションの真相を調べていく過程が描かれる。きっかけは波多野が病死し、彼が残した当時の告発文から。しかしその告発文もパスワードが掛けられたファイルのため、全てを知るのは物語のエンディングになってから。最後は、ハッピーエンドで終わっていく。

まず最初は、上の感想文にも書いてあったけど、前半のからくり。文章は波多野目線で書かれていて、IT企業に入社できたのは波多野、と思わせる流れで読み進んでいって、最後の最後で実は入社できたのは嶌だった、という大どんでん返し。ここで大きな衝撃を受ける。ここから後半に入って一気に読み進め、数日で読み終えてしまった。

最後になって、告発文を用意したのが九賀だったと判明。それで終わりだと思っていたら、実は6人全員の告発文にはちゃんとした裏話があり、全員が善意と正直さで起こしてしまった、少しの過ちでしかなかった、ということが判明。誰も悪い人なんていなかった、という清々しいエンディング。

さて、最初に言ったように、僕の思っていたことは全て上記サイトに書かれているので、それ以外の点について書いてみたいと思う。

この物語は、日本の就職活動のいびつな構造に対する問題定義をしている、と思う。本屋には就職活動対策の本が並び、そして人事採用担当向けには、採用活動対策の本さえある。就活生も採用担当も完ぺきではない。しかし人々は、「良い会社は良い就活生を見極めて、優秀な学生を採用する」という神話を信じている。

さらに言うと、日本の会社をリストラされると、優秀じゃなかったからリストラされた、というレッテルを貼られる。そしてリストラされたから、という理由で転職活動もなかなかうまく行かなかったりする。

しかし実際は、優秀な人から順番に、優良企業に採用されるわけではなく、単なる運だったり、採用担当側の好みで会ったりする。

それを踏まえるならば、企業の採用活動なんて、企業が一方的に就活性を選ぶ行事ではなく、就活生だって採用活動をしながら会社を選ぶ権利がある、ということだ。確かに何百通の履歴書を送っても、なかなか連絡が来ないと、やっと連絡をくれた企業にはなんとしても採用されたい、と思うのも無理はない。でもだからと言って、自分たちの立場を弱くする必要はないし、企業の採用担当なんて神ではない。

最近では、就職して数か月して決まった部署が気に入らなくて、すぐに辞めてしまう新入社員、転勤になって退職する社員もいるらしい。企業も人事が一斉に採用をするのではなく、各部署ごとに採用活動をさせて、入社する前に仕事内容を確定させたり、勤務地を先に決めてあげれば、そんなことにはならないはず。もうちょっと採用する手法を変えた方がいいんじゃないか?と思う。

あとがきに、作者へのインタビューが掲載されていた。作者が小説を書くときに、どのような手法を取っているか、などが書かれていた。かなり緻密に計画をされていて、さすが!の一言。エクセルシートで登場人物のエピソードなどを管理して、書き忘れのないようにする、というのも凄かった。沢山のどんでん返しがあり、やっぱり本屋大賞を取るだけのことがあるな、と思った。

この作品はコミックにもなっているし、2024年11月には映画も公開されるらしい。どのように映像化されるのか、とっても楽しみだ。
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(ドラマ)不適切にもほどがある!

阿部サダヲ主演、宮藤官九郎脚本のドラマ「不適切にもほどがある!」を見た。

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阿部サダヲも宮藤官九郎も同学年なので、彼らの活躍を見ていると自分もとても元気が出てくる。

あらすじについては、ウィキペディアにかなり詳細が載っているので、そちらを参照。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%8D%E9%81%A9%E5%88%87%E3%81%AB%E3%82%82%E3%81%BB%E3%81%A9%E3%81%8C%E3%81%82%E3%82%8B!

このクールでは、昭和の価値観と、令和の価値観を比較するドラマが2つあった。一つはこの「不適切~」でもう一つは原田泰造主演の「おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか?」。今回、「おっさんの~」を見なかったのは、あらすじを見る限り、とっても真面目そうな題材で、主演の原田さんがとても肩身の狭い感じに思えたこと。原田さんは僕より学年が1つ上だけど、まぁ同年代ということで、その同年代が肩身の狭い思いをしているのはちょっと見たくないなぁ、という感じだった。

でもこの「不適切~」に関しては、脚本が宮藤官九郎ということで、コメディ色がメインということも最初から出ていたし、第一話で笑っちゃうぐらいのミュージカルがあったので、「これなら見やすい」という感じだった。

自分の場合、状況がちょっと違うので、会社でどういう風に思われているか、などなどよくわからないけど、ドラマで描かれる会社の雰囲気を見ていると、働きづらそう、という印象。色々なことに気を使い、ちょっとでも間違えるとナントカハラスメントと言われてしまい、逆に自分がうつ状態になりそうだ。

そんな状況をコメディで表現して「笑っちゃおうよ」というストーリー展開はある意味で爽快だった。みんなが普段言えないのことをミュージカルという曖昧な感じにしながら、そしてそれを色々な出演者が言っていく、というのが「うますぎる手法」だった。

またコメディだけにとどまらず、主人公の市郎と娘の純子が1995年の阪神淡路大震災で亡くなる、という設定も意表を付かれたし、少しだけ泣けてきた。だからこそ、市郎が「どう生きるべきか?」ということを考える場面は、時代に寄らず誰もが考えないといけないことなんだな、と認識させられた。

主演の阿部サダヲは宮藤官九郎と共に「大人計画」という劇団に所属していて、また「グループ魂」というバンドでも一緒に活動している。井上役の三宅弘城も実はバンドメンバーだと知ってビックリ。純子役の河合優美、むっち先輩の磯村勇斗、向坂キヨシ役の坂元愛登もナカナカ良い味を出していてよかった。

小泉今日子が本人役で出てきたり、男闘呼組の成田昭次が最終回で出てきたり、話題になった出演者もドラマを盛り上げてくれて、とても楽しめた。

改めて宮藤官九郎の脚本は面白い!と思った。次回作に期待!

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