「未来」 湊かなえ

次にどんな本を読もうか、と思ってネットで調べたら、なかなか面白い、というコメントを見つけたので、読んでみることに。が!読み終わった後に、これほど嫌な感じのする本だとは思わなかった。でも、湊かなえさん本人の「あとがき」を読んで、その理由がなんとなくわかった。

mirai.jpg

物語は6章に分かれている。「序章」「章子」「エピソード1」「エピソード2」「エピソード3」そして「終章」という構成。

「章子」の章では、章子という中学3年生が、10歳の時に受け取った、30歳の自分からの手紙を見つめながら、人気テーマパークへ行く夜行バスに乗っている場面から始まる。章子は、父親・良太を癌で亡くした、母子家庭で生活しているが、母親・文乃は精神的に不安定なため、章子自身が家事をしている。その主人公の一人である「章子」の視線で物語が描かれている。

「エピソード1」では、章子の同級生の亜里沙の視線。亜里沙は低学年で母親を亡くし、父親の須山と弟の健斗と3人暮らし。父親からの虐待で二人とも苦しめられていた。亜里沙も30歳の自分から手紙を受け取った一人。

「エピソード2」では、章子と亜里沙の4年生の時の担任の篠宮真唯子の視線。篠宮も両親が離婚、母親は自分を祖母の家に置いて出て行った。以来、祖母に大切に育てられた。しかし、祖母が亡くなると、母親が急に帰ってきて、祖母の遺産を奪い取ってしまった。大学在学中だった篠宮は、一度きりのアルバイトで騙されて、いかがわしいビデオに出てしまう。しかし、その直後に祖母が遺書を残していたことが判明。しかし時すでに遅し。章子と亜里沙の担任をしているときに、そのビデオがことが保護者に発覚し、教師を退職することになる。それでも、章子と亜里沙のことが気になり、二人だけに30歳の自分からの手紙を書くことにした。

「エピソード3」では、章子の父親の良太の視線。どのようにして、妻の文乃と出会うことになったか、が描かれている。文乃と兄の誠一郎は、早くに母親を病気で亡くしてしまう。父親は県会議員。実は、父親が文乃と性行為をしていることを知ってしまった母親が心労で命を落としたこと、誠一郎が父親と文乃の行為を見てしまった時に「お前もやるか」と言われてショックだったこと。そして実際にはできなかったこと。誠一郎は良太に洗いざらい告白した。そして、父親を殺害することを計画し、良太には家に火を放ってもらうことにした。しかし実際は、良太は父親と一緒に自殺してしまった。良太が火を放った時に、文乃に見つかり、すぐに逃げるように言われる。その後、文乃は警察に出頭し、父親と兄に虐待を受けていたこと、そのために殺害したことを証言し、成人するまで少年院に入れられていた。

「終章」では、「章子」と「エピソード1」の続きが描かれている。章子は、母親と交際していた男性・早坂の殺害を、亜里沙は健斗を自殺に追いやった父親・須山の殺害を計画。二人とも実行し、それから逃れて、最後の思い出に、とドリームランドへ向かった。しかし、ドリームランドの入口で思いとどまり、自首すると決めたところで物語は終わった。

詳しいネタバレあらすじは、下記サイトを参照。
https://hyakuhon.com/novel/mirai/

とにかく、今回の小説は虐待だの、いかがわしいアルバイトだの、ちょっとグロテスクなストーリー展開があり、そこを読んでいるだけで、嫌な気分になった。個人的なそういう表現とかストーリーはあまり好きではないし、今まで読んできた小説もそういうのは少なかったはず。

しかし、作者の湊かなえさん本人が書いた「あとがき」を読んで、「これは読むべき小説だったのかな」とも思った。小学生の7人に1人が貧困の状態にある。40人のクラスだと5~6人が貧困ということになる。そして作者曰く、レアケースばかりを集めて小説にした訳ではなく、今の日本のどこにでもある状況だ、とのこと。そういう状況を読者に理解して欲しかった、という。

自分のことを考えれば、両親は健在で大学まで出してくれたし、虐待などもなかったし、周りの友達にもそういう人が多かった。親が離婚した、なんていう話は少なくとも自分の友達にはいなかった。今から1980年代だから?なのかもしれないけど。でもきっと、今は日本の経済も落ち込んだままバブル崩壊から30年以上経ち、普通に生活できている人はきっと少ないのかもしれない。そして、経済的に苦しいと、夫婦間のいざこざは多くなるだろうし、それが子供にも飛び火して、この物語に出てくるような状況になるのかな、と思う。

読んだ直後は、本当に嫌な気分になったが、あとがきを読んで、ちょっと考えさせられた作品だった。

nice!(0)  コメント(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。